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シェ・モワ
神田神保町のすずらん通り。
利夫の足は、餃子専門店『スヰートポーヅ』へ。
(姉達は未だに『満州屋』と呼んでいる。)

注文し、ぼんやり待ちながら、いつもの空想に遊ぶ。
この店の2軒となりが、実家だったのだ。
父母や姉達、家族で囲んでいたテーブルは、
わずか数メートル先の位置だったのではなかろうか?

にわかタイムスリップも、
ビールと塩豆、
午後から楽しめる水餃子が運ばれてきたら
もう、どうでも良くなってしまうのだった。

約60年の変わらない味に満足して、
東京堂ふくろう店へ足を向けた。
入り口正面奥の、東京関連の書棚をいつも覗くのだ…

・・・
コレマタほんの数十メートルの移動だったはず。
でも、まるで時間も場所も、
はるか遠くまで来てしまった。
そんな錯覚に、としドンは眩暈した。

そこにあるはずの、利夫の知る東京堂ふくろう店は
数日前に、日本初の女性向け書店にリニューアルしていた。
店内すべてが、女性のための乙女空間へと様変わりしていたのだ。
バッグやアクセサリー等の雑貨もあり、
店は、多くの女性客で賑わっていた。

店名は『シェ・モワ』(わたしのおうち)だそうだ。
さっきの、空想の中の我が家は、差し詰め
(としドンのおうち、か)

利夫は、近い内に姉達を『シェ・モワ』に連れて来たいと思った。
すずらん通り生まれの、かつての乙女達を。


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